珈琲豆「モカに還る」をどうぞ。

清冷とした冬の朝に私は「ヤンニハラール・モカ」を焙煎する。前夜に温水で三度洗って笊にあげておいた生豆は、乾式精製にもかかわらず表面の色が緑に寄って艶も増していた。ベタつくほどではないが湿り気が残る生豆を測ると、重さで七パーセントほど増している。そこも考慮に入れて今から進行する焙煎の具合を頭の中でシミュレーションしながら、火をつけたコンロのガスコックを指先で突いて火力を僅かずつ調整する。手廻し釜にザラザラと投入すると、シャリシャリと音をたてながら豆が直火に焙られていく。釜の上に空いている方の手ををかざすと熱い空気に通常よりも湿気を感じる。その湿気が減ると、エチオピアのモカ独特の甘い香りが漂い始めた。《エチオピアコーヒーの神髄はハラール産にあります》という森光さんの言葉が頭の中に響く。「モカに始まり、モカに還る」…森光さんが言う「モカに還る」はイエメンのモカ港のことであり、彼の師である標さんが廃港モカにコーヒーを捧げたことを想ってのことだろう。だが、私にとって今は森光さんが遺したエチオピアコーヒーの神髄「ヤンニハラール・モカ」を焼くことが、一年前に他界した森光さんを偲ぶ意味で「モカに還る」なのだ。そんなことを思いながら釜を廻していると、パチパチという一度目のハゼが終わって焙煎も佳境に入っていく。頭を空っぽにして、緊張と弛緩を相立たせた状態に心身をもっていく。ピチピチという二度目のハゼ音が鳴り続ける按配をうかがい、裂帛の気合で自らと豆に掛け声を「ハッ」と発して、釜を火から下ろした。焼きあがった「ヤンニハラール・モカ」を笊にあけて冷ましていると、《エチオピアコーヒーの神髄はハラール産にあります》という森光さんの言葉が再び頭の中に響いた。

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